「世論の曲解」という新書

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)

蒲島郁夫熊本県知事のお弟子さんであられる菅原琢氏の新書を読了。新書はたいがい中古本を探して購入するのだが、生協で手にとって思わず衝動買いした本である。

内容は、郵政選挙(05年)から今夏の総選挙(09年)までの現代日本政治を、世論調査や選挙結果などのデータを使いながら計量的に分析しつつ*1、世間に跋扈した俗論や俗説を打ち破ろうとするもの。例えば、麻生太郎に国民的な人気があるというのは、フジサンケイグループのヨイショ記事やよくマスコミが行う「次の首相」調査のからくり等によるものであったことや、07年参院選での自民党の敗北が、小泉改革負の遺産としての地方疲弊が原因ではなく、一人区で社民党国民新党との協力が進み、民主党候補者の有力性が流布した結果、それまでの選挙で当選可能性がほぼ確実と思われていた自民党候補へのバンドワゴン効果による得票がなくなり、民主党候補への票が伸びたと言うものである。

興味深いお話ばかりで、訳知り顔の政治評論家にウンザリしている、政治に興味があって意欲的なお方には是非一読を薦めたい本である。

でも、まあ、当然疑問に思ったこともあったわけなので、以下、メモ書き(かなり瑣末なことだが)。
・コラム1で現職首長の苦戦の原因の一つとして、中選挙区制から小選挙区制への移行により、地域の保守政界が一枚岩でなくなり調整が可能な地域ボスが減って、有力対抗馬になり得る現職に楯突く若手を抑えられなくなったということを挙げている。あくまで印象に基づくが、著者が挙げる松阪市千葉市横須賀市のような比較的大きな市では、中選挙区制において地域割りが行われず、むしろ自民党は分裂して、候補者同士で競争していたのでないかと思う。例えば、松阪市なら、この間の記事で触れた田村元が強かっただろうが、今の三重県知事の野呂昭彦やその父恭一の野呂派もいたはずである。つまり、中選挙区制の下では、もともと保守政界は分裂含みであったと思うので(分裂の顕著な例として田中派後藤田正晴系VS三木武夫系が争った徳島戦争がある)、小選挙区制になって地域の自民党議員が一人になれば、むしろ地域唯一のボスとして働けるのではないかと。
・07参院選時の一人区の勝利? 先述したように、一人区での勝利として、野党協力や候補者の有力性を挙げている。しかし、野党協力で最大の効果があるであろう社民党が候補者を立てないという協力が発生したのは、04年自民→07年民主当選の一人区においてはp93の表を見ると、山形と富山だけである。他の区でも社民党の協力や元衆院議員などの候補者特性を挙げているが、前者は一人区においてそれほど社民党組織力があるとも思えないし、ましてや最後まで社民党に残っている労組が「無党派自民党支持者などへの働きかけを強める有効な手段」を持つとは思えない。そりゃ、普通の市民でもできる選挙ポスター張りなどの選挙活動の雑務をして貰うのは民主党候補にとって助かるだろうが、社民党の支持者の手助けがかなり役立つ程、民主党組織力が低いとは思えないのだが・・。後者の候補者の有力性(何を持って有力とするのか良くわからないが)の方に説明力があると思った。

*1:計量的な学術論文のようには難しくない