「三本の矢」という小説
- 作者: 榊東行
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1998/04
- メディア: 単行本
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もう10年以上も前の小説である。著者は当時某省庁課長補佐だった人物である。
「三本の矢 政官財」というタイトルで、贈収賄のような癒着構造が中心の話なのかなと思って読んでみたが、そんな単純なものではなかった。
金融経済ミステリと帯で表現されているように、確かに金融危機が俎上に載せられているが、それだけではない。
官僚の思考や行動といった行政学の知見や政治学と経済学の異同への著者なりの見解、のような学術的な内容を含んでいて、勉強にもなる小説である。
官僚が書いたものだからといって、見くびってはいけない。小説としてもサスペンスの要素を入れつつ、読者を一気に引き込む文章で、かなり面白い。
以下、本筋とは若干外れる雑記。
最近、官僚批判が喧しい。官僚さえ悪者に仕立てておけば、万事良好とでもいうのか。
小選挙区制になったからといって、一人ひとりが天下国家を考えて投票することは現実的にはあり得ない。有権者は自己の利益を一番に考えて投票しがちであろうし、あるいは投票にさえ行かないかもしれない。だとしたら、政治家がより選挙に行く層の利益を志向するのは、選挙の当落が彼らにとって死活的である以上、合理的だ。
対して、官僚は何十年も安定して仕事に取り組める。つまり、政治家よりも、個別の利益ではなく国家の益を考えて行動することが性質上は可能ではないか。
大事なのはバランス感覚だと陳腐なことを書いておこう。