新書「代議士のつくられ方」

代議士のつくられ方―小選挙区の選挙戦略 (文春新書)

代議士のつくられ方―小選挙区の選挙戦略 (文春新書)

本書は、韓国出身の研究者が平沢勝栄の初めての総選挙に密着取材して得た選挙分析である。平沢は今でこそテレビで「しょーもない*1」発言をするなどして有名議員であるが、著者は1社会変動を雄弁に物語っている東京の選挙区、2組織作りの過程などが観察しやすい自民党の新人候補、3当選しそうという理由で平沢を選んだらしい。
平沢が立候補した総選挙は、中選挙区制から小選挙区制へと選挙制度が変化して初の衆院選であった。この選挙改革は政策中心の競争を目指そうというものであった。だが、小選挙区制になったために、当選者は地区代表としての性格を強め中央での利益代弁の必要が高まった。さらに候補者は、中選挙区時代では選挙区の部分を握っていれば当選できたが、一人の当選者しか出さない小選挙区制では全体から票を得る必要がある。そのために流動層の獲得が求められることとなった。その結果として、多くの有権者が受け入れやすい政策だけを語るという戦略が取られることになったのである。これらのことから、政策競争を目的とした小選挙区制の導入はその目的に繋がらなかった。
最近の選挙ではマニフェストが出される。この現象は著者の分析のように小選挙区導入だけでは政策競争に至らなかったために、検証可能な政策を提示することで政策を投票基準として定着させようという狙いがあると思う。確実な集票のために利益団体や地域共同体を使うというのは分かるが、そのしがらみによって議員行動が縛られて、結果的に国家利益全体ではなく部分利益が国政に反映されてしまう。これでは日本国民としてはありがたくない。是非とも国民一人ひとりが国家全体にとってどの政策が良いかで投票してもらいたいが、まあただの書生論でしょうな。

*1:某先生の表現を借りた